毎日当たり前に行う衣服の着替え。しかし、片麻痺(体の片側が動かしにくい状態)や関節の拘縮がある方にとって、着替えは転倒リスクや痛みを伴う大仕事です。
介護における着脱介助の基本は、単に服を着せることではなく、本人の「できる能力(残存機能)」を最大限に活かしつつ、安全に動作をサポートすることです。この記事では、着脱介助の鉄則である「脱健着患(だっけんちゃっかん)」の原則を中心に解説します。
1. 衣服の着脱介助が持つ意義
着替えは、単に身だしなみを整えるだけでなく、生活リズム(昼夜のメリハリ)をつける重要な行為です。パジャマから日中の服に着替えることで、交感神経が刺激され、「今から活動するぞ」という意識のスイッチが入ります。
また、袖を通す動作は全身の関節を動かすため、立派な生活リハビリテーションにもなります。
2. 着脱の鉄則「脱健着患(だっけんちゃっかん)」
片麻痺がある方の介助において、最も重要で試験にも必ず出るのがこの原則です。
服を脱ぐときは、まず自由に動かせる健康な側の腕から袖を抜きます。健側の腕が自由になることで、残った麻痺側の服を自分で外したり、介助者が安全に服を抜き取ることが容易になります。
服を着るときは、動かしにくい麻痺側の腕から先に袖を通します。麻痺側を先に入れることで、服にゆとりができ、後から健側の腕を自力で通しやすくなります。(逆に健側から着てしまうと、麻痺側の腕を無理やり引っ張らなければならず、肩関節の脱臼などを引き起こす危険があります)
3. 【現場事例】Fさん(右片麻痺)の着脱介助
脳卒中の後遺症で右半身に麻痺があるFさん。最近、着替えを面倒がり「パジャマのままでいい」と拒否することが増えました。
アセスメントと実践
スタッフが観察すると、Fさんは前開きのシャツを着る際、無意識に「動く左手(健側)」から袖を通そうとし、結果的に右腕(麻痺側)が服に引っかかって痛みを感じていたことがわかりました。「痛いから着替えたくない」というのが本音だったのです。
スタッフは「Fさん、着るときは動かしにくい右手(患側)から先に入れますよ。左手(健側)で服をたぐり寄せてみましょうか」と声をかけ、「着患」の原則を丁寧に伝えました。Fさんは左手を使って器用に右腕に袖を通し、その後はスムーズに左腕を通すことができました。
痛みを伴わずに着替えられるようになったFさんは、再び毎朝きちんと服を着替えてデイルームに出るようになりました。
4. 資格取得のテストにおいてのポイント
出題の傾向と対策
「脱健着患」の原則は、片麻痺の方だけでなく、点滴をしている方(点滴側を患側とみなす)の着脱でも出題されます。非常に間違いやすいので注意が必要です。
- 脱健着患の基本
❌ 引っかけ: 「右片麻痺の利用者が上着を着るときは、左腕(健側)から先に袖を通す」
⭕️ 正解: 着るときは患側から。右片麻痺なら右腕(患側)から先に通すのが正しい。 - 点滴中の着替え
❌ 引っかけ: 「左腕に点滴をしている利用者が服を脱ぐときは、左腕から先に脱ぐ」
⭕️ 正解: 点滴をしている側は自由に動かせないため「患側」として扱う。脱ぐときは「脱健」なので、点滴をしていない右腕(健側)から先に脱ぐ。 - 介助者の立ち位置
❌ 引っかけ: 「介助者は利用者の健側(動く方)に立ってサポートする」
⭕️ 正解: 転倒リスクへの備えや、動かしにくい側をサポートするため、介助者は原則として患側(麻痺側)に立つ。