記事:介護福祉士試験「介護過程」完全解説〜ICF(国際生活機能分類)の基本的考え方〜
📖 介護福祉士対策 2026.08.17

記事:介護福祉士試験「介護過程」完全解説〜ICF(国際生活機能分類)の基本的考え方〜

約7分で読めます

ICF(国際生活機能分類)の基本的考え方

はじめに:「できないこと」から「できること・全体像」への転換

介護や医療の世界において、利用者の状態をどのように捉えるかは、提供するケアの質を大きく左右します。かつて主流だったICIDH(国際障害分類)は、「病気➔能力低下➔社会的不利」というマイナスの側面(障害)を直線的に捉えるモデルでした。

しかし、2001年にWHO(世界保健機関)が採択したICF(International Classification of Functioning, Disability and Health:国際生活機能分類)は、これまでの常識を覆しました。ICFは、障害というマイナス面だけでなく、「健康状態」や「できること(プラス面)」を含めた人間の「生活機能の全体像」を捉え、さらに環境や個人の性格といった「背景」が相互に影響し合っていると考える、極めて前向きで包括的なモデルです。

Ⅰ. 【ケーススタディ】車椅子のHさんをICFで捉え直す

Hさん(70代男性)は、脳卒中の後遺症で両足に麻痺があり、車椅子生活を送っています。以前の考え方(ICIDHモデル)では、「脳卒中(疾患)だから、歩けない(能力低下)。だから、外出できない(社会的不利)」というネガティブな一直線の見方しかされませんでした。

しかし、担当の介護職はICFの視点を用いてHさんの生活全体をアセスメントしました。

  • 健康状態:脳卒中後遺症(状態は安定している)。
  • 心身機能・身体構造:両下肢の麻痺はあるが、上半身の筋力はしっかりしている(強み)
  • 活動:歩行はできないが、手を使って細かい作業をすることはできる(強み)
  • 参加:現在は外出しておらず、社会的な役割を失って孤立している。
  • 環境因子:自宅の玄関に段差があるため外に出られない(阻害因子)。しかし、同居する妻の介護力と、近所の人の理解がある(促進因子)
  • 個人因子:Hさんは元大工で、物作りが大好きであり、負けず嫌いな性格(促進因子)

このICFの分析により、「歩けないから外出できない」という思考が打ち破られました。介護職は、Hさんの「上半身の力」「物作りの趣味」「負けず嫌いな性格」というプラス面と、「妻や近所の理解」という環境因子を組み合わせたケアプランを提案しました。

玄関にスロープ(環境因子の改善)を設置し、Hさんは車椅子で庭に出るようになりました。そして、特技を活かして近所の子供たちのために木のおもちゃを作るようになり(活動の拡大)、今では地域のバザーでおもちゃを出品する役割(参加)を果たしています。

このように、ICFを用いることで、一見「何もできない」と思われていた利用者の人生が、環境や個人の強みによって劇的に広がる(相互作用する)ことがわかります。

Ⅱ. ICFを構成する3つの「生活機能」

ICFでは、人間の生活機能を以下の3つの次元で捉えます。これらを明確に区別できることが国家試験での必須条件です。

1. 心身機能・身体構造(Body Functions and Structures)

生命を維持するための身体の働き(生理的・心理的機能)や、身体の解剖学的な部分(手足、内臓など)を指します。
具体例:視力、聴力、筋力、関節の可動域、認知機能、胃や腸の構造など。

2. 活動(Activities)

生活をしていく上で、個人が何らかの課題や行為を「実行すること」を指します。いわゆるADL(日常生活動作)やIADL(手段的日常生活動作)はここに分類されます。
具体例:歩くこと、食事をすること、着替えること、料理をすること、文字を書くことなど。
※ICFでは、実際の生活で「している活動」と、環境が整えば「できる活動」の両方を評価します。

3. 参加(Participation)

家庭、地域、職場などの生活・社会場面に「関わること(役割を果たすこと)」を指します。単なる動作ではなく、社会的なつながりが焦点となります。
具体例:主婦として家族の食事を作る、地域の自治会に参加する、会社で働く、趣味のサークルに加入する、友人と旅行に行くなど。

【試験の罠:活動と参加の違い】
・「一人で料理を作ること」➔ 動作の実行なので「活動」
・「家族のために食事を作り、母親としての役割を果たすこと」➔ 社会的役割なので「参加」

Ⅲ. ICFを構成する2つの「背景因子」

生活機能(心身機能・活動・参加)に影響を与える背景要因です。これらがプラスに働けば「促進因子」、マイナスに働けば「阻害因子」と呼ばれます。

1. 環境因子(Environmental Factors)

利用者の外側にある、物理的・社会的・態度的環境のことです。
具体例:
・物理的環境:段差、手すり、車椅子、気候など。
・人的/社会的環境:家族の支援、介護制度、医療サービスなど。
・態度的環境:障害者に対する地域住民の偏見、家族の過保護など。

2. 個人因子(Personal Factors)

利用者の内側にある、その人固有の歴史や特徴のことです。健康状態には含まれません。
具体例:年齢、性別、性格(前向き、神経質など)、価値観、生活歴、職歴、趣味など。

Ⅳ. ICFの最大のポイント「相互作用(双方向性)」

ICIDHが「一方通行(矢印が右向きだけ)」だったのに対し、ICFの構成要素はすべてが双方向の矢印で結ばれ、互いに影響し合っている(相互作用・双方向性)のが最大の特徴です。
例えば、「車椅子が支給された(環境因子の改善)」ことにより、「一人で外出できるようになった(活動の向上)」結果として、「地域の集まりに参加し(参加の向上)」、それが刺激となって「筋力や認知機能が向上した(心身機能の向上)」というように、どこか一つが良くなれば全体に波及するという考え方です。


まとめ:試験対策のポイント

国家試験では、以下のキーワードと分類問題が頻出します。

  • モデルの違い:「ICIDH=マイナス面、一方通行」「ICF=プラス面(健康状態も含む)、相互作用」
  • 活動と参加の違い:「活動=個人的な動作の実行(例:歩行、更衣)」「参加=社会的な関わり・役割(例:就労、趣味の集まり)」
  • 環境因子と個人因子の違い:「環境因子=外側(段差、家族の協力、車椅子など)」「個人因子=内側(年齢、性格、趣味、価値観など)」

具体的な事例が提示された際、それがICFのどの項目に当てはまるかを正確に分類できるようにしておきましょう。

学びをさらに深めましょう

この記事の内容に基づいた確認クイズで、あなたの理解度をチェックしてみませんか?

学習アプリでクイズを解く