回復の見込みがなく、死が近づいている状態を「終末期(ターミナル期)」と呼びます。この時期のケアの目的は、病気を治すこと(キュア)から、苦痛を和らげ、その人らしい最期を支えること(ケア)へと大きく転換します。
この記事では、終末期に生じる身体的変化(死の兆候)と、それに対する介護福祉職としての適切な身体的ケアのポイントを徹底解説します。
1. 終末期におけるケアの目標(緩和ケア)
終末期ケア(ターミナルケア)における最大の目標は、WHOの定義にもある「苦痛の緩和」と「QOLの維持・向上」です。痛みや息苦しさといった「身体的苦痛」だけでなく、死への恐怖(精神的苦痛)、役割の喪失(社会的苦痛)、人生の意味への問い(スピリチュアルペイン)という「全人的苦痛(トータルペイン)」にアプローチします。
2. 死が近づいた時の身体的変化(死の兆候)
最期が近づくにつれ、人間の身体には以下のような自然な変化が現れます。これらを異常と捉えて慌てるのではなく、穏やかに受け止める知識が必要です。
下顎呼吸(あごを上下させてあえぐような呼吸)や、チェーンストークス呼吸(無呼吸と浅い呼吸を繰り返す)が現れます。喉の奥でゴロゴロと鳴る「死前喘鳴(しぜんぜんめい)」が起こることもあります。
血圧が低下し、脈拍が弱く速くなります。手足の先から冷たくなり、皮膚にはチアノーゼ(青紫色)や斑点が見られるようになります。
傾眠傾向(うとうとしている状態)が強くなり、呼びかけへの反応が鈍くなります。しかし、聴覚は最期まで残ると言われているため、ポジティブな声かけを続けることが重要です。
3. 【現場事例】Cさんの終末期身体的ケア
食事が全く摂れなくなり、1日の大半をベッドで眠って過ごすようになったCさん。手足が冷たく、呼吸も浅くなってきました。
苦痛を取り除くケアの実践
- 口腔ケア: 経口摂取がなくても、口呼吸により口腔内が乾燥し、強い不快感(痛み)が生じます。スタッフはスポンジブラシを水で湿らせてこまめに潤し、保湿ジェルを塗布して苦痛を和らげました。
- 体位変換: 皮膚が弱く痩せているため、褥瘡リスクが極めて高い状態です。しかし、無理な体位変換は痛み(苦痛)を与えます。クッションを多用し、「痛くないですか?」と表情を確認しながら、最小限の力で優しく安楽な体位(セミファーラー位など、呼吸が楽な姿勢)を保ちました。
- 聴覚へのアプローチ: 反応がなくても、「Cさん、気持ちいい風が入ってきましたよ」と日常の言葉をかけ、手を握りながらケアを続けました。
無理に食べさせることや、痛みを伴う過度な処置を避け、「心地よさ」を追求した結果、Cさんは穏やかな顔つきのまま最期を迎えられました。
4. 資格取得のテストにおいてのポイント
出題の傾向と対策
終末期ケアは、「苦痛の緩和」と「無理な延命をしない自然な姿への対応」が問われます。
- 食事・水分への対応
❌ 引っかけ: 「体力を落とさないよう、無理にでも食事や水分を摂らせる」
⭕️ 正解: 無理な水分摂取は浮腫や呼吸苦の原因となるため、本人の欲求に応じたごく少量の提供や口腔内の保湿にとどめる。 - 聴覚の残存
❌ 引っかけ: 「意識がないため、声かけは必要ない」
⭕️ 正解: 聴覚は最後まで保たれると言われているため、ケアの際の声かけは必ず行う。 - 死前喘鳴(しぜんぜんめい)への対応
❌ 引っかけ: 「ゴロゴロ音が鳴ったら、すぐに頻回な吸引を行う」
⭕️ 正解: 頻回な吸引は本人に強い苦痛を与えるため、体位の工夫(側臥位など)で分泌物を排出しやすくするなど、苦痛の少ない方法を優先する。