導入
認知症は、超高齢社会の日本において多くの家庭、施設が直面する最も重要なケアテーマの一つです。介護現場で認知症の方の生活を支えるにあたり、絶対に理解しておかなければならないのが「中核症状」と「行動・心理症状(BPSD)」の違いです。この2つの症状の成り立ちの違いを理解することで、現場で焦ったり怒ったりせず、相手の立場に寄り添った本質的なケアが可能になります。本コラムでは、これら2大症状の違いと、接し方のコツについて解説します。
1. 脳の病変から直接生じる「中核症状」
中核症状は、アルツハイマー病や脳血管障害などによって、脳の神経細胞がダメージを受けることで「直接的に発生する認知機能の低下」です。薬や介護アプローチで進行を遅らせることはできますが、細胞自体の損失から生じるため消失させることは極めて困難です。
- 記憶障害: 新しいこと(さっき食べた朝食の内容など)から順番に忘れていく症状。
- 見当識障害: 現在の「時間」「場所」「人物」の認識が曖昧になること(ここがどこかわからない、季節感がわからないなど)。
- 理解・判断力の低下: 情報処理のスピードが遅くなり、複雑な会話やお金の計算、安全性の判断ができなくなる。
- 実行機能障害: 料理の段取りを立てる、家電を正しく操作するなどの計画的な行動が難しくなる。
2. 環境や不安から二次的に発生する「行動・心理症状(BPSD)」
BPSD(Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia)は、中核症状を背景に、本人の不安、体調不良(痛み、便秘、脱水)、周囲の対応(注意される、無視される)、あるいは不適切な住環境などが重なり合って「二次的にもたらされる行動や心の変化」です。
- 主な症状: 徘徊(歩き回り)、幻覚・妄想(「財布が盗まれた」など)、興奮・暴言・暴力、抑うつ・不安、介護への拒否など。
- BPSDの最大の特徴: 周囲の関わり方や環境の調整、身体的ストレスの解消によって、症状を大幅に軽減したり消失させたりすることが可能であるという点です。
3. 認知症の方への接し方の基本(否定しない・安心感を与える)
認知症ケアで最も避けるべきは「説得しようとすること」や「否定すること」です。例えば、食べたばかりなのに「ご飯はまだですか?」と聞かれた際、「さっき食べましたよ」と論理的に返すと、本人は忘れているため「意地悪をされた」「嘘を言われた」と感じて不安や怒り(BPSDの引き金)に繋がります。
「いま準備しているので、少しお茶を飲んで待ちましょうね」といったん本人の世界を受け入れて安心感を与える(バリデーション技術)ことが、BPSDを予防し、穏やかな生活を支えるカギとなります。